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ホーム/政治学者 森田浩之の政治って何だろう?

第20回 政府の情報管理と日本国民の感情移入力

 

昨年末にかけて、鳩山内閣支持率が急落したが、その契機になったのが普天間基地移設問題をめぐる内閣の「迷走ぶり」だ。

確かに閣僚ごとに言い分が違うのを毎日メディアで見せられていたら、やはり「閣内不一致」という印象は免れない。

しかしだからといって、もし鳩山氏がマスコミが大好きな“リーダーシップ”なんてものを発揮して、トップダウンで基地問題について決定すれば、マスコミは今度は「独断専行」などと批判するだろう。マスコミは何を言っても納得しないのだ。




2.当事者たちの言い分

この問題は根が深い。たくさんの当事者がまったくお互い相容れない、それもとても強い意見を持っているからだ。

まずアメリカ。「ポスト冷戦時代になぜまだ沖縄の基地が必要なのか」と思う人も多いだろう。しかし世界的な軍事的影響力を保持しておくためには、そう簡単には手放せないのだろう。

さらに日本全体としても、北朝鮮の挑発的・好戦的態度を見るかぎり、アメリカ軍の存在はそれほど不必要というわけではない。

加えて日本政府の立場もある。今後、長期的にはアメリカとの関係を見直すにしても、いますぐにアメリカを激怒させるわけにはいかない。北朝鮮を含め、まだまだアメリカにはお世話にならねばならないという弱みもあるだろう。

しかしそういう国レベルでの恩恵は、少数の人たちの過度な犠牲の上に成り立っている。沖縄の人たちだ。

このような多くの当事者の思惑が真っ向から反する場合、それを調停するのが政治の仕事だが、それを容易に実行できるほど政治は万能ではない。




3.アメリカのアフガン論争

昨年末にオバマ大統領はアフガニスタンに駐留する米軍の3万人増派を決定・発表した。しかしこの話題は昨夏からの政治議題で、政権・議会・マスコミ・国民を巻き込んだ全国的な論争を展開していた。

毎日毎日マスコミはアフガニスタンでの米兵の死亡・負傷について報道しつづける。だから家族や予備兵は戦争の進展に懐疑的だ。

民主党左派は平和への思いを込めて、2008年の秋にオバマに投票した。そのオバマが戦火を拡大する。彼らにしてみれば、裏切られたようなものだ。

一方、アメリカの軍事的威信を維持したい共和党は増派を支持し、勝つことだけを目的にする軍としても4万から8万人規模の増派を求める。

大統領は自分の支持基盤を喜ばせるためには軍の縮小に向かいたいところだが、一方でこのまま増派しなければ、米軍側の死者・負傷者は増えつづけるばかり。

もし縮小すれば、アルカイダ+タリバン連合の勢力が拡大し、隣国のパキスタンを脅かす。問題はパキスタンが核保有国ということだ。テロリストの手に核兵器――悪夢のシナリオだ。

決定までの数ヵ月間、すべての当事者がアフガニスタン増派問題を自分のこととして議論し、考えてきた。マスコミも毎日いろいろな論説を載せることで、国民的論議を喚起した。仮に自分はアフガニスタンに行かなくても、アメリカ人は自分のこととして、増派すべきか、もしすべきならどんな規模にすべきかについて悩みに悩んだ。

政府としては、内部で議論すべきことの一部をマスコミ・国民に投げることで、落とし所を探っていた。結果3万人増派に落ち着いたが、完全に納得せずとも、妥当な結果になったという見方が多い。数ヵ月にわたって国民的論議を展開してきた成果だ。




4.政府による情報管理

こういう議論が進展した一つの要因は、ホワイトハウスがうまく情報をマスコミにリークしてきたことだ。増派するかしないか、する場合には何万人規模か……この手の情報を少しずつマスコミに流す。

マスコミはこの情報を政府筋からの談話として報道する。これを受けて民主党議員、共和党議員が発言する。タウンミーティングなどを通じて、議員は国民の感触を得る。そしてそれをワシントンに持ち帰る。

同時に報道を見た国民は、論者による評価を判断材料に、自分ならどう決定するかに深く悩む。これらすべてアフガニスタン問題を自分のこととして受け取っていることが前提になっている。

翻って日本はどうか。まず首相官邸がもう少しうまく国民的論議を喚起するように情報をリークしてもよいのではないか。

かつ、確かに閣僚間の発言の食い違いはよくない。これに関しては官房長官なりが各閣僚の発言の整合性をとるよう調整すべきだろう。

ここで注意しておくべきことは、各閣僚間の「意見」まで調整すべきだということではない。それは国民からは見えないところで喧々諤々じっくり議論すればよい。そうではなく、問題はプレゼンテーションだ。

カメラやマイクの前でどう発言すべきかということだけをインストラクションしておけば、国民に見える形での閣内不一致は防げるはずだ。

首相官邸が生煮えの発案をマスコミにリークすると、それが全国に報道される。するとテレビや新聞で評論や社説という形でいろいろな見解が出される。国民は政治家の言葉とともに、有識者の見解を基に自分の意見を形成していく。その素案が不人気なら、政府はすぐに「報道が間違っている。それは政府の見解ではない」と否定すればよい。




5.日本国民に欠如する感情移入力

ここでの最大の問題は、日本国民が沖縄の米軍基地問題を“自分のこと”として受け取っていないことだ。まったくの他人事だから、難しい決断を政治家に任せ、というよりは放り投げ、それでいてすぐに決めないと「決断力不足」と批判する。

われわれはまず日本における駐留米軍の役割についてタブーなしに議論すべきだろう。われわれは長いあいだ、この問題を放置してきた。戦争の問題も含め、われわれはいまこそこの問題から目を背けてはいけない。

次にもしある程度だろうと米軍の日本駐留が必要だということが、大方の国民のコンセンサスになれば、今度はどこに負担を求めるかということを自分のこととして深く悩まなければならない。

これは原子力発電所にも当てはまるが、国全体としては必要だが、一部の人たちに過度の負担・犠牲を強いる事柄がある。

もし米軍が必要だというなら、だれにどういう根拠で、かつ(汚い話だが)どれくらいの見返り・慰謝料を払うことで納得してもらうのかということを、何度も言うが“自分のこと”として考えねばならない。

既知のことだが、近くに基地がある人たちの生活はとても悲惨だ。さらに米兵およびその家族の日本での犯罪が絶えない。

もしわれわれが在日米軍を必要と思い、それを求めるならば、それで得られる恩恵のために少数の人たちが過度の負担と犠牲を強いられていることを自覚すべきだろう。

仮に、米軍は必要ではないが、日米関係を良好に保つために、沖縄の米軍基地を維持するべきだという消極的基地賛成派であっても、それが結果的に沖縄の人たちの犠牲の上に成り立つならば、われわれは彼らの立場になって、真剣に悩まねばならない。




6.ポイントの整理

最後に普天間問題に関する私の見解を整理しておこう。

 (1)内閣は迷走していない。

 (2)鳩山内閣は当事者すべてが強い意見を持っている複雑な懸案を抱えているため、いまの状態は致し方ない。というより様々な当事者の意見を聞こうという態度で逆に決断できないというのであれば、他人の気持ちを理解しようと努力している点で素晴らしい。

 (3)閣僚間の「発言」(「意見」ではなく)の食い違いだけは調整しておくべき。ここでの問題は中身ではなく、あくまでプレゼンテーションである。

 (4)首相官邸が改善すべきは決断力ではなく、国民に考えさせるような形で素案をうまくマスコミにリークしていくこと。要は情報管理だ。

 (5)しかし最大の問題は、日本国民一人ひとりが沖縄の人たちの苦しみを理解していないことだ。いま一番改善すべきなのは首相の決断力ではなく、国民の感情移入力である。

 

(このコラムは毎月1日と15日の月二回。次回は1月15日です。)




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